人間関係

混迷の某国から人間関係について考察した備忘録。

書物との人間関係

世の中には、ほんとうにたくさんの本がある。それらの本の多くは、すでに死んでしまった人たちによって書かれていて、時代を経ても残っている素晴らしい本がある。本を読むということは、それらの著者の、もっとも深いところから出てきた文章を自分のなかにとりこみ、あたかもそれらの人たちの思考を追体験するような気分にさせられる。

 

現実に、同時代的に、自分のまわりにいる人たちが、自分と似たような考えをもっていたり、歴史上重要な人物や、人類史上最高の知性と、同レベルで物事を考えているという幸運に恵まれることは、きわめてまれだ。だから、それなりに知性に恵まれた人の大半は、どこか世界に違和感をおぼえながら暮らすことになる。

 

そんなとき、書物というのは、心の友になりうるものだ。書物は余計なことはいわないし、二度と変化をしないという意味で信頼でき、安定している。自分のまわりに理解者がいなくても、人類の歩みの中では、たとえ国や時代が違っても、共感できる存在がいたということは、現実の友人がだれもいないという場合にはとくに、支えになることかもしれない。

 

書物はそれがよい書物であればあるほど、現実の人間が物足りなく感じる友人だが、いっぽうで書物のほうも決して自分のほうには踏み込んでこないので、完璧な友人ではないのは確かだ。依存するような関係ではなく、再読しないまま長い時間を経ても、いつ戻っても同じままでいてくれるような、なつかしい関係として何冊かの気に入った書物を持っておくことは、環境に左右されずに自分の水準を保ち、高めるためにも、あったほうがよいかもしれない。